大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(ネ)2535号 判決

理由

控訴人等が訴外高松村農業協同組合を取扱者として、別紙債権目録(省略)中預金日欄記載の日に、利息を確定利率欄記載の各利率と定め、金額欄記載の各金員を、第十二回ないし第十四回割増金附茨城みのり定期貯金として預け入れ、各その貯金証書の交付を受けたことは当事者間に争がない。

控訴人等は、本件控訴人等のなした茨城みのり定期貯金は、形式的に各単協の募集形式をとつたに過ぎず、真の預り主は被控訴人茨城県信連であると主張するので判断するのに、証拠を綜合すると、次の諸事実を認めることができる。すなわち、被控訴人茨城県信連は茨城県下一円の農業協同組合(単協)又は農業協同組合連合会を会員として組織され、会員の貯金又は定期積金の受入、会員の事業に必要な資金の貸付その他の事業を行なうもので、定款の定めによつて、上記貯金の払戻及び定期積金の給付に充てるため一定額以上の金員を被控訴人金庫に預け入れていた。割増金付茨城みのり定期貯金は、農業資金の蓄積を積極的に奨励し、その系統外流出を防止し、且つ単協における事業資金の充実を図るため、昭和三十年に始められた三ヵ年計画茨城県農協貯蓄百億円達成運動の一環として行なわれたもので、被控訴人県信連支所単位の各単協の代表者で組織された地区貯蓄推進委員会においてその実施要領を定め、募集目標額は参加単協が自主的に決定し、その責任において目標額を完全に消化することと定めて実施した。そして被控訴人県信連もその一単位として自己の目標額を募集し、傍ら、昭和三十年一月十二日大蔵省告示第二十九号割増金付貯蓄取扱準則の定めに従つて、幹事機関となり、関係官庁に対する届出、連絡等の事務を扱い、また貯金証書、ちらし、ポスター等の印刷、抽選会場のあつせんをなし、且つその普及宣伝等の応援をなした。被控訴人等の主張する第十二回ないし第十四回茨城みのり定期貯金は、その各回毎になされた上記推進委員会の実施要領に基いて、被控訴人等の所属する高松村農協が募集引受をなしたもので、その預り主は被控訴人茨城県信連ではなく、右高松村農協であつて、同農協において控訴人等に対し直接返還の責任を負うものである。

次に控訴人等は被控訴人等は本件茨城みのり定期貯金の宣伝ポスターに「後援」なる文字を印刷配付したのであるから、右は高松村農協の支払時期における資力を請合つたもので、同農協が右貯金を支払わず又は支払能力がなくなつた場合には被控訴人等において連帯してその支払をなすことを保証したものであると主張するので判断する。

被控訴人等が本件茨城みのり定期貯金の宣伝用ポスターに、「後援」なる文字を表示したことは当事者間に争がないところ、控訴人等は右「後援」なる文言は「みのり定期貯金」は農林中央金庫、茨城県信連後援のものですから、有利確実です。安心して貯金して下さい。」の意味に解すべきであるから。被控訴人等が単協の支払時期における資力を担保することを約したものであると主張する。しかしながら、証拠によれば、上記ポスターは各単協が合同して、その費用をもつて製作し宣伝の用に供したものであることが認められるから、右は各単協が組合員等一般に対し、茨城みのり定期貯金の申込の誘引行為としてなしたに止まり、右ポスターに表示された後援者において預金を受ける各単協の支払時期における支払能力を保証することを約したものであると解するのは無理な解釈であるというのほかはない。むしろ、右貯金募集の経過は上段認定のとおりであるから、被控訴人等は各農家の預金を単協を経て吸収する農協の系統金融機関である関係上、傘下の各単協が合同して行う貯蓄運動を推進せしめるため、側面から応援し、成績優良の単協の表彰その他上記認定の貯金証書、ちらし、ポスター等の印刷、抽選会場のあつせん及び普及宣伝等の事実行為を援助する趣旨で、「後援」なる表示がなされたものに過ぎないと解するのが相当である。また、本件控訴人等主張の各貯金の預り主が高松村農協であることも上段認定のとおりであつて、右各預金について、同組合が支払時期に支払をなさず、若くは支払能力を失つた場合には、控訴人等に対し、直接被控訴人等が連帯して支払う趣旨の保証をなすことを約した事実を認めることのできる証拠もない。もつとも控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人等の中には、被控訴人等の後援を信頼して預金をなした旨の供述はあるが、その趣旨が控訴人等主張のように連帯保証の趣旨であることはたやすく認められないばかりでなく、控訴人等において右のような趣旨であると軽信したとしても後援の趣旨が上段認定のような趣旨であることを合せ考えれば、それは独断にすぎないから、それだけでは、被控訴人には連帯保証の責任を追及することができないのは、もちろんであるといわなければならない。

よつて、控訴人等の主張はいずれも理由がなく、これを失当として排斥した原判決は正当であるから本件控訴は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例